Hondaの電動推進機プロトタイプ実証実験開始から6ヶ月が経過し、堀川遊覧船での実証実験の今後をどのように考えているか、再び上定昭仁(うえさだ・あきひと)松江市長に話を聞いた。

堀川遊覧船の電動化をきっかけに、「松江をカーボンニュートラルのロールモデルにしたい」と語る市長。今回の実証実験を地域の発展や自然環境の保全に直結する重要なプロジェクトと位置づけ、未来への新たな一歩を踏み出す覚悟がうかがえるインタビューとなった。

プロジェクトストーリー水上のカーボンニュートラル「電動推進機」-06-

Honda電動推進機プロトタイプ実証実験6カ月を終えて
~松江市長に聞く~

国宝松江城・400年前の「手漕ぎ船」を
電動推進機プロトタイプ搭載の遊覧船でアップデート

「国宝松江城は松江市民の誇りであり、城の堀を巡る堀川遊覧船は城下町・松江を代表する観光資源です。その電動化は、カーボンニュートラルを強力に推進する松江市にとって、欠くことのできない象徴的な取組みでした」と、Honda電動推進機コンセプトモデル発表から実証実験の第1フェーズ終了に至るまでの経緯を上定市長は振り返った。

初めて電動推進機プロトタイプを体感した時のことを市長は「水のせせらぎ、水鳥のさえずりや羽ばたき、虫の音が鮮明に聞こえることに驚きました」と語った。「松江城下の堀割りは江戸時代からほぼ変わっていないので、当時手漕ぎで船を航行していた風情がそのまま味わえます。二酸化炭素を排出しない点を含めて、400年前の堀川遊覧を電動推進機プロトタイプがアップデートしてくれたわけです。ロマンがありますね」と、国宝松江城の歴史に思いを馳せながら表現豊かに語った。

2023年夏、電動推進機プロトタイプ搭載の堀川遊覧船に試乗する上定市長

松江の新たな観光アイコン!
電動推進機プロトタイプ搭載の堀川遊覧船、一般公開へ

2024年3月で実証実験の第1フェーズは終了し、4月から一般乗船を全面解禁して第2フェーズに移行する。今後はHonda電動推進機プロトタイプに、一般の方でも堀川遊覧船に行けば乗船できるようになる。

市長は「『Hondaの電動推進機プロトタイプを体験できるのは世界中で松江の堀川遊覧船だけ』というキャッチフレーズでグローバルに訴求することで、松江を訪れてみたい、電動船に乗ってみたいというインバウンド需要を掘り起こせるのではないでしょうか」と期待を寄せる。

「欧米の方々は環境に対する意識が高く、カーボンニュートラルの観光コンテンツに注目しています。江戸時代の情緒が残る「本物の日本がある松江」の魅力を発信することで、堀川遊覧船への海外からの乗船客数を加速度的に増やしていきたいと考えています」と、松江を世界に売り込むための「魅力」として電動推進機プロトタイプを位置づけた。

「かつて松江を含む出雲地方には『たたら製鉄』という産業文化がありました。砂鉄を採掘した跡地は棚田にして米を作り、森林は輪伐してシイタケやソバを栽培することで地域を潤し、さらに田畑を耕す牛は銘柄牛になり、その堆肥で田畑を肥やすという循環型社会が形成されていました。これは、現代のSDGsそのものであり、電動推進機プロトタイプを核にして、このサイクルを現代に蘇らせることで、インバウンドへの訴求力はさらに高まるはずです」と市長は熱く語った。

水を汚さず自然と共生する電動推進機プロトタイプの存在は、環境意識の高い欧米の方々を松江市に惹きつけるオンリーワンの魅力となる。市長のビジョンは、古きを訪ね新しきを知りながら、地域の歴史と自然環境に根ざした持続可能な未来を築くこと。堀川遊覧船の電動化をきっかけとして伝統と革新が結びつき、地域の誇りと価値を次世代に継承することが期待できる。

松江が牽引する水上のカーボンニュートラル
~松江市の活動の広がりに期待〜

「国内の観光遊覧船を運航している他の地方自治体とも交流があり、堀川遊覧船の電動推進機プロトタイプによる実証実験は大きな話題になっています。将来的には今回の取組みを先進事例として『水上推進機の電動化ネットワーク』のような形で広がることにも期待します」と今後の展望を語った。

Honda電動推進機プロトタイプは環境分野のトップランナーとして取組みを重ねる松江市のシンボルとして市民の環境意識を変えるだけでなく、他の自治体や国内外の観光地にも大きなインパクトを与える可能性がある。Honda電動推進機プロトタイプによる堀川遊覧船の実証実験を水の上のカーボンニュートラルの成功事例「松江モデル」として世界に広めるべく着実に推進する市長の目線は、常に一歩先の未来を見据えていた。

その上で市長は「子どもたちに電動船でまちなみを遊覧体験してもらいたいですね。堀川は自然が豊かで水辺に棲む生き物を観察する環境学習の機会も設けていますが、電動推進機プロトタイプに乗船することで、カーボンニュートラルやSDGsを達成する意識をさらに高められる」と電動推進機プロトタイプが、次世代を担う子どもたちに持続可能な地域のあり方についての教育の一助となることにも期待を寄せた。

Hondaの開発チームは、電動推進機コンセプトモデルの発表からわずか1年5ヶ月という短期間でプロトタイプを完成させ、実証実験を開始した。そして、2024年4月から一般乗船の第2フェーズにステップアップする中で、松江市のインバウンド観光需要を牽引する重要な役割を果たす。電動推進機プロトタイプは、持続可能な社会の実現に向けた新たなステージを迎える。

電動推進機プロトタイプの開発に携わったHonda開発者たち
水上のカーボンニュートラルへの挑戦!
電動推進機の現在地