プロジェクトストーリー水上のカーボンニュートラル
「電動推進機」-02-

「松江市がHonda電動推進機の実証実験を承諾した理由」を聞いた

水上のカーボンニュートラルに向けてチャレンジするHondaが、電動推進機プロトタイプの実証実験を行っている、島根県松江市の「ぐるっと松江 堀川めぐり(堀川遊覧船)」は、1997年の運航開始から730万人以上の乗船客数を誇る人気の観光遊覧船。そこに電動推進機プロトタイプの実証実験を承諾した理由を松江市長と、環境政策を進める担当者に聞いた。
Honda電動推進機プロトタイプを搭載した遊覧船に試乗する上定市長

松江市の環境に関する考え方と取組み

三方を宍道湖、中海、日本海に囲まれた松江市は、古くから漁業や観光など水資源を生活の糧にしているため、市民には水を敬い大切にする気質がある。

松江市で生まれ育ち、海外経験も豊富な上定昭仁(うえさだ・あきひと)市長は、諸外国における脱炭素のトレンドを実感し、環境意識の高い欧米のインバウンド(訪日外国人旅行)を呼び込むにはエコを意識した取り組みが欠かせないとの想いが強い。そして、松江市は環境省の「脱炭素先行地域」の選定を受けて、地域全体でカーボンニュートラルに取り組んでいる。

「環境省に提出した提案書のタイトルは『国際文化観光都市・松江の脱炭素化による魅力的なまちづくり』で、堀川遊覧船の電動化を公約に掲げました」と語る上定市長。松江観光のシンボルは国宝松江城と堀川遊覧船で、堀川遊覧船の電動化を「脱炭素に取り組む松江の象徴」と位置付ける。

【脱炭素先行地域に選定】(松江市ホームページ:外部サイト)

松江市がHondaの電動推進機の存在を知った時

松江市の脱炭素化を推進するのが、環境エネルギー部の花形泰道(はながた・やすみち)部長。
「堀川遊覧船は運航当初から環境に優しいHondaの4ストローク船外機を使っています。しかし、脱炭素を進めるうえで電動化が懸案でした。

堀川遊覧船を運航している公益財団法人松江市観光振興公社(以下 観光振興公社)では、遊覧船の電動化の検討を行っておりましたが、パワー不足などの課題が多く実用化には至りませんでした。

2021年度に入り市長から脱炭素の取り組みを進めるにあたり、観光都市のシンボルともいえる堀川遊覧船で電動化を検討してほしいという指示があり、観光振興公社と一緒に、堀川遊覧船で使用できる製品を探していました。そんな中、2021年11月にHondaが電動推進機コンセプトモデルを発表し、これを堀川遊覧船に使えないだろうかと思い立ち、市長に提案しました」と振り返る。
電動推進機プロトタイプを搭載する遊覧船の屋根は、通常とは違う特別仕様

Hondaの電動推進機の実証実験を決定するまでの経緯

電動推進機コンセプトモデルの報告を受けて大きな可能性を感じた市長。カーボンニュートラルの実現を目指すHondaと、観光モビリティの電動化を推し進める松江市の方向が一致すると判断した市長は、堀川遊覧船を運営する公益財団法松江市観光公社にHondaとコンタクトを取るように指示した。

Hondaも本格的な開発に向けて実証実験が可能な場所を探していたタイミングだったため、担当者がすぐに堀川遊覧船に赴きさまざまな角度から検証した。その結果、堀川遊覧船の運航ルート、1日の運航スケジュール及び船体サイズ等から導いた必要出力、必要エネルギー量等の要求性能がHondaの想定する電動推進機のスペックと非常に近かったことから、実証実験が可能と判断した。

松江市として、なぜHondaとのパートナーシップを決定したのか?

松江市がHondaと実証実験を通じたパートナーシップを結んだ理由について花形部長は「運航当初からの4ストローク船外機の実績に加え、松江市がHondaに接触してからの迅速で丁寧な対応が決め手でした」と語る。Hondaのスタッフがベテランの船頭さんと密にコミュニケーションを取りながら現場のリクエストを確認するなど、Hondaのものづくりの姿勢に信頼感を深めていった。
2023年10月22日に実施した乗船体験会の様子

今後、堀川遊覧船での実証実験を、どのように活用していきたいと考えているのか?

堀川遊覧船に電動推進機プロトタイプを搭載し、実際の運航に供しながら商品性を検証する実証実験は2023年8月から開始され、まずは関係者を中心に乗船が続き、第2ステップとして10月22日と29日には、松江市民を対象にエンジン船外機と電動推進機プロトタイプの乗り比べ体験会を実施した。

上定市長は「松江がクリーンで、脱炭素の方向に向かっているということを、この実証実験を通して市民と共有し、サスティナブルツーリズムの先進例としてインバウンドに訴求していきたい」、花形部長は「堀川遊覧船の電動化を契機に、他の観光モビリティでも電動化を進めて、将来的には松江市全体でカーボンニュートラルを達成させたい」と実証実験がもたらす効果に期待を寄せた。

水上でのカーボンニュートラルに向けて着実にステップを踏んでいる電動推進機プロトタイプの実証実験。次回は電動推進機乗船体験会に参加した市民モニターの声を届ける。

サスティナブルツーリズムの先進例として訴求していきたいと語る上定市長の視線は、常に一歩先を見ている
水上のカーボンニュートラルへの挑戦!
電動推進機の現在地