OCEAN MASTER STORY

世界のプロが選んだHonda

世界で活躍するHonda船外機の
知られざるストーリー

2023.11.14
名匠一族の新たなる挑戦 33

世界初公開された
Hondaのフラッグシップ船外機BF350
佐野造船所の
30フィート・カスタムシリーズの主機へ

Hondaはジェノバ国際ボートショー2023において
V型8気筒350馬力の大型エンジンを搭載するフラッグシップ船外機
BF350を世界初公開。
佐野造船所は新造する30フィート・カスタム艇に搭載を決定。

「ジェノバ国際ボートショー2023」において世界初公開されたBF350。Honda船外機初となるV型8気筒350馬力の大型エンジンを搭載する(左:アクアマリンシルバー 右:グランプリホワイト)

1964年登場のGB30から、2023年に世界初公開されたBF350へ

今年で創立75周年を迎えたHondaにとって、1964年はF1参戦を果たした特別な年になった。
その年の8月2日、F1第6戦にあたるニュルブルクリンクで開催されたドイツグランプリのスターティング・グリッドに、RA271というHondaのF1マシンが並んだのだ。
それは2輪用レーシングエンジン開発で培った技術を注ぎ込んだ60度V型12気筒1.5リッターエンジンを横置きに搭載したF1マシンだった
「Honda、F1参戦」というニュースは日本のモータースポーツファンを歓喜させ、世界の眼がHondaに向けられた。そして翌年にはリッチー・ギンサーが乗ったRA272が、メキシコグランプリで初優勝を遂げる。参戦僅か二年目の快挙だった。

今年3月に開催された「ジャパンインターナショナルボートショー2023」のHondaブースには、そのRA272が展示されたのだが、その隣には「水上を走るもの、水を汚すべからず」というHonda創業者の本田宗一郎の信念の中で誕生したHondaの初代4ストローク船外機GB30が展示された。G30型(海上用)空冷4ストローク単気筒エンジンを積み、180度回転方式のループハンドルで操る4馬力船外機だ。
このGB30が登場したのはF1初参戦と同じ年の7月のことで、以後Hondaはスイスのボーデン湖の舶用エンジンに対する環境規制や、米国カリフォルニア州大気資源局(CARB)の排出ガス規制を大きくクリアするなど、環境性能に優れた4ストローク船外機を世界に送り続けてきた。

「ジャパンインターナショナルボートショー2023」のHondaブース。Hondaは1964年にF1初参戦。翌年のメキシコグランプリで初優勝を遂げた。その時のF1マシンRA272が展示された。左には1964年7月に発売されたHonda初の4ストローク船外機GB30と、ボートショー当時のフラッグシップモデルBF250Dのスポーティーホワイトタイプが並んだ。後方に展示されるのはBF250を二基搭載したSANO30FB Offshore Fishing Cruiser

GB30(右)は4馬力。並んで展示されたBF250Dスポーティーホワイトタイプは250馬力

「ジャパンインターナショナルボートショー2023」から半年、Hondaは9月21日からイタリアのジェノバ(リグーリア州)で開催された「ジェノバ国際ボートショー2023」において、Honda船外機初となる60度V型8気筒350馬力の大型エンジンを搭載した船外機BF350を世界初公開した。
搭載されるのは新たに専用設計で開発された排気量4,952CC、SOHC、32バルブの4ストロークエンジン。その動力性能と環境性能はさらなる進化を遂げ、高い走破性と上質感にあふれたフラッグシップモデルの登場となった。

佐野造船所で建造中の30フィート・ウォークアラウンド艇

佐野造船所で建造中の30フィート・ウォークアラウンド艇。立ち上がったフレームにステムを取り付ける9代目・佐野龍太郎会長(右)と10代目・佐野龍也社長

BF350世界初公開の一報を受け、情報収集に走ったのが佐野造船所の佐野龍也氏だ。
龍也氏はこの4月に佐野造船所10代目として社長の座に就いたばかりで、その初プロジェクトとして自らが設計した30フィートのウォーク・アラウンド艇(以下30WAと表記)の建造の真最中だった。
この30WAは全長9.1m×最大幅2.8m×喫水0.7mというスペックを持ち、釣りをはじめファミリークルーズを楽しめるマルチパーパスなコンセプトで設計されている。エンジンはBF250Dの一基掛けを想定して設計図が起こされたのだが、その艇体には将来的な大型エンジンへの換装にも耐える余裕があった。

30WAの船体基礎構造。フレームに縦通材が通されているのがわかる。このあと全フレームに対して、15mm厚のバルクヘッドが取り付けられた

各バルクヘッドを縦材で繋ぎ、さらに補強

デッキ下部構造が完成。このあとデッキが貼られる

艇体の造り込みが凄い。骨格である全フレームに対して15mm厚のバルクヘッドが入り、トランサムも12mm厚のマリングレード合板を6枚合わせて72mmという厚みのあるボードとした。さらにそこに7層のFRPを積層する。ちなみにラワンを構造材とする船底にも7層のFRP積層を予定している。
重量配分に気を使いながら必要な箇所には十分な強度を持たせる。これが佐野造船所の伝統的な船造りで、仕上がってみれば剛性度が高く、波に強い艇体が完成する。今回もその建造方法がとられ、基本設計のままBF350の搭載が可能という計算結果が出た。
その後の龍也氏の動きが早い.
BF350の搭載を決めた。

30フィート・カスタムシリーズの主機にBF350

実は龍也氏はこの30WAの船型をベースに、コンソール仕様やハードトップ仕様など様々なデザインに対応する30フィート・カスタムシリーズ(仮称)を計画していて、その相棒として、動力性能と耐久性能に全幅の信頼を寄せるHonda船外機を選択したいという強い思いがある。
自身の愛艇である31フィートのダブルプランキング仕様の重いランナバウトのメーターが一気に40ノットに届いた時、マウントされた二基のBF250Dに目をやり、「さすがHonda」と漏らしたのを聞いたことがある。
顧客にもHonda船外機の圧倒的な動力性能で、走行性能に自信を持つサノブランドの船を楽しんでもらいたいのだろう。

SANO31 RUNAMOUT“RIGBY”。チークとホンジュラス・マホガニーのダブルプランキングで建造され、排水量は5トンに届く。マウントされた二基のBF250Dによって一気に40ノットに届いた時、設計者の佐野龍也氏は「さすがHonda」とつぶやいた

今後建造される2号艇以降の30フィート・カスタムシリーズにもBF350が搭載される予定だが、動力性能に加えてもうひとつの選択理由が扱いやすさだ。
30WAを発注されたオーナーさんは、佐野造船所建造のシーバスハンターシリーズから乗り継がれるボーティング経験豊富な方だが、初心者からベテランまでユーザー層の広がりが期待できる30フィート・カスタムシリーズでは、扱いやすい大型船外機が必須となる。
BF350も650~1000rpmの範囲でエンジン回転数を調整できるトローリングモードなどの操船サポートに加え、係留、保管時の利便性を向上させるサポート機能が充実する。

Honda船外機、その際だつスタイリング

佐野造船所9代目で会長職を担われる佐野龍太郎氏から教わったことだが、ホンジュラス・マホガニーで建造するランナバウトは、マホガニーの華やかな赤茶色と、見せ所ともいえるバウデッキに艤装するバウレールやマリンホーンなどの銀色、そしてシート類やモーターウエルなどの白色の三色を基本としている。そのカラーバランスを崩さずに搭載できるのがHonda船外機なのだそうだ。
ランナバウトに限らず、龍太郎氏が走行性能と居住性、そして艇体美を追求したオフショア・フィッシング・クルーザーシリーズにも、Honda船外機が専用デザインであるかのようにマッチする。
世界中で建造される様々な艇体に合うのがHonda船外機のスタイリングの強みで、BF350もすっきりとしたフォルムを保ちながら、フラッグシップモデルとしての高級感が備わる。

佐野龍太郎氏が「走・居・美」を追求して設計・建造したSANO30FB Offshore Fishing Cruiser。艇体の美しさにトランサムのBF250が良く合う

V型8気筒5リッターエンジンを搭載したHonda船外機BF350は、欧州、北米、そして日本で今後公開される予定だ。

取材協力:(有)佐野造船所(https://sano-shipyard.co.jp/)
文・写真:大野晴一郎